枝廣淳子

枝廣淳子コラム 地球の未来を考える

プロフィール/枝廣淳子(えだひろじゅんこ)

環境ジャーナリスト・翻訳家、幸せ経済社会研究所所長、東京都市大学環境学部教授。東京大学大学院教育心理学専攻修士課程修了。環境問題に関する翻訳、執筆、講演、企業のCSRコンサルティングや異業種勉強会等の活動を通じて、地球環境の現状や国内外の動き、新しい経済や社会のあり方、幸福度、レジリエンス(しなやかな強さ)を高めるための考え方や事例等を研究。「伝えること」で変化を創り、「つながり」と「対話」でしなやかに強く、幸せな未来の共創をめざす。

  • 第1回 2015年12月
  • 第2回 2016年3月
  • 第3回 2016年8月
  • 第4回 2016年11月
  • 第5回 2017年3月
  • 第6回 2017年4月
  • 第7回 2017年11月
  • 第8回 2017年12月
  • 第9回 2018年2月
  • 第10回 2018年3月

世界の再エネ動向と日本

動き出したトランプ政権

パリ協定については、2017年に入って、メディアの方からの「トランプ政権になって、世界の環境への取り組みや温暖化はどうなるのか?」という取材や問い合わせが増えています。ドナルド・トランプ氏は、「パリ協定から離脱する」と選挙期間中から繰り返しており、政権に就いたのちも、実際に温暖化懐疑論者を環境行政のトップに据える、石油パイプラインの開発を推進するなど、温暖化対策にとって逆行する動きが目立っています。
気候変動など持続可能性に対するトランプ政権の影響として私が心配しているのは、「環境政策そのものの弱体化」「時代に逆行したエネルギー政策」「米国内外の取り組みへの心理的影響」の3つです。
一つめは環境政策そのものの弱体化です。
実際、2月27日にトランプ大統領が示した政権初の国家予算の概略では、国家安全保障の強化のため、国防予算を約6兆円増やすとしており、その分、他の政府機関の予算が削られることになります。「ホワイトハウスが示唆しているように、もっとも打撃を受けるのは環境保護局(EPA)になりそう」です。そして「当局の話から、EPAでは大規模な予算の移行により、特に気候変動関連政策の予算が削減される見込み」と報道されています。 2月下旬、スコット・プルイット環境保護局長官は環境保護局(EPA)の従来の政策の多くを「徹底的に撤廃していく」と述べ、特に、クリーン・パワー・プランとメタンガス排出基準、水質規制の廃止に言及しました(2017年3月28日 トランプ米大統領は大統領令に署名)。クリーン・パワー・プランとは、オバマ政権下で成立したもので、「2030年までに発電所のCO2排出量の32%削減を義務付ける」ものです。現在米国はパリ協定で「2025年までに温室効果ガス排出量を05年比で26~28%削減」という目標を掲げていますが、この目標達成の大きな原動力となるものです。 このようにEPA関連の政策が劇的に転換してしまうと、パリ協定での米国の削減目標は、まったく達成できなくなるでしょう。政権に就いてからトランプ氏は「パリ協定からの脱退」を口にしなくなりましたが、パリ協定は目標が未達でも罰則がないため、撤退しなくても単に無視するのではないかと心配する向きもあります。
2つめの「エネルギー政策」を見ると、石油パイプラインの推進など、エネルギーの環境側面は考慮せず、自国のエネルギー安全保障や産業界の意向を最優先する動きが相次いでいます。米国のある調査会社は、クリントン氏が政権に就いた場合に比べ、米国のCO2排出量は16%増えると試算しており、世界に与える影響は多大なものになりそうです。そして3つめの側面は、多くの人々への心理的な影響です。「せっかく世界が一丸となって取り組もうとパリ協定が成立したのに…」という失望感がNGOや先進的な取り組みをしてきた自治体・企業など、そして人々に広がり、環境対策の手綱を緩める企業や市民が増えるかもしれないという懸念があります。

  • 青の物語はこちら
  • 緑の物語はこちら
  • プロジェクト対象機器はこちら
ページトップへ