広がる「石炭企業からの投資引き揚げ」キャンペーン

また、米国や欧州で大きなうねりとなりつつあるのが、石炭・石油企業への投資を引き揚げるよう求めるキャンペーンです。投資する(インベスト)に対して、投資引き上げ(ダイベスト)を進めようというものです。もともとは、学生たちが自分の大学の大学基金に対して、「自分たちの未来を壊す会社に投資をするな!」と、石炭会社の株を手放すよう働きかける形で始まりました。

スタンフォード大学は、多額の基金をもつ大学の中で最初に「石炭企業株をすべて売却する」と発表した大学の1つです。これまで30校以上が同様の決定をしており、この動きは米国外にも広がっています。
2015年5月には、ノルウェー国会が全会一致で、政府年金基金(100兆円を超える世界最大規模の運用資産を持つ)から石炭関連企業への投資撤退を決めました。今年の4月には、このノルウェー政府の年金基金の運用を担っているノルウェー銀行(ノルウェーの中央銀行)が、石炭ベースの製品に関する新たな基準や企業アセスメントに基づき、世界52社の企業を投資先から除外することを決定しています。
具体的には、石炭の中でもエネルギー源として用いられる一般炭を対象とし、事業活動の30%以上を石炭関連事業が占める(特に石炭採掘企業)、もしくは売上の30%以上を石炭関連事業から得ている企業(特に電力企業)を、投資先から除外する、という基準が設けられました。除外企業52社の中には日本企業も3社入っています。「日本ではそういう動きはないから」「外国のことだから」ではすまない時代になってきたことがわかります。

「座礁資産」のおそれ

このような状況に、石炭会社は、株価や時価総額が大幅に下落するなど、財政的にも厳しくなりつつあります。パリ協定の成立と発効を受けて、投資家の見る目もますます厳しくなっていくことでしょう。
そういった投資家が注目しているのが「座礁資産」です。これは、英国の非営利団体カーボン・トラッカーが2011年に「燃やせない炭素」という報告書の中で発表した考え方です。簡単に説明しましょう。

  1. 平均気温の上昇を2℃以内に抑える可能性を持つためには、
    化石燃料の使用を大幅に削減する必要がある
  2. 最新の科学的な推計によると、2℃以内にとどまる見込みをそこそこに保つには、
    今世紀前半に化石燃料から排出される二酸化炭素(CO2)を
    1400ギガトン(1ギガトン=10億トン)に抑える必要がある
  3. 2013年までにすでに400ギガトンを排出しているので、
    2013年から2050年までは1000ギガトンしか排出できない
  4. 世界に残っている化石燃料の確認埋蔵量に含まれているCO2は、
    石炭(65%)、石油(22%)、天然ガス(13%)を合わせて2860ギガトン
  5. 1~4の状況から、炭素埋蔵量(主に石炭と石油)のうち1860ギガトンは
    地中に残したままにしなければならない
  6. 最終的に、埋蔵量は価値を失い、座礁資産となる。
    これらの資産を自社の評価額に含めていたエネルギー会社の価値は、計算し直す必要がある
    という考え方です。投資家としては、これまではその企業の評価額に含めていた石炭や石油の埋蔵量が「あっても掘り出せない」という状況になれば、その企業価値を改めて考え直す必要が出てきます。

鯨油から灯油への移行にしても、馬から馬車、自動車への移行にしても、歴史を通して、エネルギー転換の後にはつねに座礁資産が残されてきました。今回のエネルギー転換も、多くの座礁資産が残されることになるでしょう。石炭業界に関連する座礁資産には、掘り出せない石炭埋蔵量や石炭火力発電所、炭鉱に加え、かつて炭鉱と市場をつないでいた専用鉄道、停車場や鉄道港にある石炭の取扱施設や貯蔵施設などがあるでしょう。ほかにもさまざまな「旧エネルギー」の座礁資産が考えられます。

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